Handcuffs

呼び出し、何時も唐突。
忘れかけていた
先日の事があれば
警戒心が湧くのも
当然で。

店に赴き、通された部屋は
懐かしい馨り。
尤もこの部屋は
滅多に使わなかったのだが
其れでも雰囲気は同じだ。

片手に手錠を掛けたら、
相手の方が一枚上手で
もう一方を腕に付けられた。
シニカルな笑みに
してやられた、と
思った時には既に遅く、
相手の思惑に嵌ったかの様な。
そしてまた始まる一悶着、
手の内を殆ど知られて居ると
此れ程厄介な物なのかと
今更に痛感する。

『何故』も『どうして』も
通用しない。
告げられた詫びは
次の瞬間には
呆気無い程に裏切られた。

何が『自制する』だ、
策士め。
私はもう『商品』でも
貴方に属する人間でも無いよ。

只、
見上げた相手の表情が
一瞬苦悶を浮かべていて。
其れが本意なのか策なのか、
後々になって
一点の染みを胸に落とされた。

手首の痕は暫く消えなそうだ。
もっと強く、
噛み付いておけば良かった。