Sob

日付が変わって、
『ああ、七夕だ』と。
空を仰ぎ、
覆われていた雲間に
星を探してから
寝室へ赴こうとした瞬間。

電話が鳴って。

出て、一瞬動揺。
矢張り一筋縄では行かなかったかと、溜息。

『探してた』の言葉通り、
探し当てられた事実。
声音だけで相手が解る、
解らない訳が無い。
人伝に行く末は一応知ったが
『そう来たか』と。
復讐の宣言かと思ったら
不穏な方向へと流れて行って。
淡々と言葉を繋いでいれば
次第に非難の言葉に変わる、
嗚咽混じりに。

可愛い顔で、
可愛い声で、
誘い文句を口にして。
『堕ちない人はいない』と
妖艶な笑みで豪語していた、
其れでも『堕ちない人』が
此処に居るんだよ。
私の心に触れたと思っていた？
触れられたのは躯だけ、
ミイラ取りがミイラになった事に
漸く気付いた貴方に
翻弄してやろうといった強気は
既に微塵も感じられなくて。

いつぞやに貴方が言っていた、
『僕は小悪魔だから』。
ならば私は魔王なんだよ、
会わなきゃ良いものを応じて、
踏み躙ると予想が付く癖に。

渇望に応える気は無い。
抱くも抱かれるも私の意志だ、其れとも同情で抱くとでも？
うん、無理だよ、刹那の快感もそれなりに魅力的だけど。
心迄響く快感は躯を繋げただけでは到底得られぬ物だし。
私は快感より至福を感じたい、愛しき人と分かち合いたい。
今迄肉体関係のみを求めてきた貴方には解らないだろうね、
其れがどんなに幸福で満ち足りた物かなんて。

会いたいだなんて言わなければ
今以上傷付かなくて済むのに。
与えられる物は提示した、
其の上で貴方は何を求める？

残酷な優しさなら、幾らでも。

そして貴方を傷付けて、
私も同時に傷付こう。
所詮私のエゴなのだろうが。


明け方に感じた寒さを
早く紛らわせておこう。
闇色マントに包まれる前に。