ジンフィス

酒入りの檸檬スカッシュを飲みたくなる。
適度な甘さ、好みの炭酸。
何より淀んだ心を一掃してくれる、檸檬の香り。
貴方はそんな感じだ、色も、連想出来るし。
尤も此れは、個人的イメージ。

約束の内一つを、漸く実行した。
ふらりと入り込んだ路地裏、見覚えのある横顔、髪の色。
私服の彼を店で見ておいて良かった、と（笑）
たかだか10ｃｍ程度の身長差ならば背伸びする必要性は何処にも無く、
背後から伸ばした手、両目を覆って。
こんな子供染みた悪戯、
前もって公言していればあっさりと私だとばれる。
故に対して声色を返る事も無く。

貴方に対して敬語を外しても、
また不思議な感覚、伝えた通り。
臨時収入が入った折にはバーで寛ごうか、
好みのカクテルを傾けながら。

貴方の呟き、
何度も連ねられた『御免』。
そんな言訳、まさに今更。
此れ以上私を翻弄して愉しい？
最早動かぬ、貴方と擦れ違う事は有れど
会う事は、二度と無い。

貴方との逢瀬は倖せだった。
…そう思い込もうとしていた。
貴方が私にくれたのは
一時の快楽、果てしなき切なさ。
傲慢と、束縛と、苛立ちと、苦汁と、

―――――放置に対する順応。

また以前のように、なんて。
虫が良過ぎる。
私は都合の良い人間では無い。

ささくれ立ったこの心、貴方への慕情は既に枯れている。