Ambivalence

海で月を探し、されど天候故にどんよりとした雲に姿を隠す其れは見付からず。
潮風に冷えた身体を温めるべく、他人から熱を奪い、
同等となった所で腕の中で眠った相手の体重を受け止めて。
『就職おめでとう』の言葉、有難う。

夜更け、深く深く湿った空気を肺へと吸い込む。
冷えてゆく内部、もっと、もっと。
其の冷たさが私に冷静を齎すから。

貴方があの人の、とか、そんな事は最早関係無くて。

一年前に悲しみにくれて貴方に委ねた。
重ねていたのかもしれない、一番近かった貴方に。
果て無く堕ちて行く己の思考を一時でも紛らわせたかった、遮断したかった。
貴方に重ね、蜉蝣にも重ね、そして無意味と悟り、壁を作った。
薄い薄い、透明な壁、されど強固な、簡単には割れぬ、壁。
絶対の信用を置いている人の前でのみ門戸を開き、先に夢の中へと旅立って。

貴方の腕の中は居心地が善かった、だけれど悲しさと切なさともどかさが同時に。
遣る瀬無さが火照る身体を冷ましていく、潮が引いていくように。

どうやって言葉にしたら良いのだろう、
どうしたら貴方に伝わるのだろう。
どうしたら…貴方の心に響くのだろう、
貴方が欲している言葉と、間逆の答しか告げられぬ私に。

183センチの身体を抱き締めて「御免なさい」しか言えない。
其の腕の中で侘びしか零せない。


どうして私はこんなにも弱いのだろう。
完全に突き放す事が、出来無い。

酷く苦しいのに、涙が出てこない。