テールランプ

仕事休みを頂いて久方振りの面子と飲み会を。
此れだけの人数が揃うのは久方振り。
二時間コースで飲み食いをし、
今は何をしているの、だとか
今は何処で働いているの、とか
学校は今年卒業できそうか、とか
『今』の話ばかりに話が咲いて。
実は、最初名前を忘れてしまった人も居て、
でも訊かぬまま記憶を手繰り寄せ、手繰り寄せ、思い出して。

酔いの回った一団がカラオケ屋での二次会に繰り出す、
初っ端から男二人がスタンドマイクを借りてきて小柳の『愛情』を熱唱、
あの高音を見事に歌い上げる、…シャウトで（笑）
懐メロから新曲まで混沌を極めるセレクト、
『トンボ』だの『キューティーハニー』だの『ガンダム』だのと、
皆して好き放題やりたい放題、タンバリンがやけにリズミカルに響いて。
終始笑いっぱなしだった。

ラスト三十分、仕事明けの元上司の登場。
後ろから見れば何処ぞのホストかヤクザか、と言った真っ黒のスタイルで。
忙しいから来ないと言っていたくせに相も変わらず優しい人で、
焦燥しきった顔なのに表面だけ明るく振舞っていて。

数人を送る為に回ってくれて、
二人きりになった時にガソリン切れ、お礼とお詫びにと千円渡して。
ガソリンを満タンにして、少しばかりのドライヴ。
少し痩せたな、とか
責任ある仕事をこの歳で任されていると同年齢の人と話が合わない、とか
当たり触りの無い話ばかり、して。

大事な事は、何一つとして話せなくて。

自宅の前に止まった車の中で、あばら骨の触り合い、服越しに。
大きな、掌。

別れ際の挨拶、口付け一度…を、今回は止めた。
逃げるように車から降りて、
『またね』と、今度は何時になるか解らないのに呟き合って。
車のテールランプが見えなくなる迄見送って。

心の中で『サヨナラ』と。
もうあの頃の様には行かないから、
私達は離れ過ぎてしまったから、
今のままが、良い。

私には今の生活が在り、
あの人にも今の生活が在り。
殆ど知るよしも無いのだから、会った時に『久し振り』と
今宵のように笑い乍友達で居たい、元々割り切った関係だったのだし。

ただ、酷く心が凍えていて。
ベッドの中で丸くなって、一人眠る。

過去に貴方に愛されました。
過去に貴方の愛を受けて、私も惹かれ愛しました。
其の事実を告げぬまま、有耶無耶のまま、戯れとして終わらせた。

何時の間に買い替えていたらしい携帯の機種や色迄同じで、
必ず貴方は何処かしらで繋がりを作っておくんだね。
嬉し気に笑う貴方は酷く残酷だ、もう呼び覚まさないで。